既婚者との浮気・不倫が発覚してしまい、相手方の配偶者から慰謝料を請求されるケースは決して少なくありません。
その際にはさまざまな書類が作成されますが、そのなかの1つに「合意書」があります。
不倫トラブルにおける合意書には、不倫相手が不貞行為(浮気・不倫)を認めた事実のほか、不倫に対する慰謝料を支払うことやその金額、支払い方法などが記載されます。
そして、当事者双方がサインをすると、両者の合意が成立したことを証明する文書となります。
そのため、合意書は交渉や裁判にあたって重要な書面になります。
合意書の内容として重要なのは、やはりお金(慰謝料)についての項目です。
合意書だけですべてが決まるわけではありませんし、合意書にはお金以外の重要な問題も多く含まれます。しかし、慰謝料に影響してくるのは間違いないだけに、合意書の内容に合意したというサインをする場合には、細心の注意を払わなければなりません。
今回は、合意書とは何かに加え、合意書に慰謝料について記載されている場合のポイントなどについて、解説していきます。
合意書へのサインは慎重にすべき
不倫が発覚したときには、不倫相手の配偶者から、合意書へのサイン(一般的には、署名と押印)を求められることがあります。
合意書は、その後の慰謝料の交渉、裁判等において重要な価値を持ち得ることを考えれば、差し出された合意書にサインをする際には、必ず慎重に内容を確認すべきでしょう。
以下では、婚姻関係を継続することを念頭に置いて、合意書のあり方について説明します。
(1)合意書とは?
そもそも不倫・浮気のトラブルにおける合意書とは、不貞行為の被害者と不貞相手(または不貞行為をした配偶者)との間において交わされる、不貞行為の事実を認めること、慰謝料の金額と支払方法、口外禁止等を記載した書面のことをいいます。
合意書はあくまで本人の自由意思でサインをして完成させるものであり、相手方からの強要に応えて無理にサインをするものではありません。
なお、「示談」は、人と人との間で起きた問題を、裁判によらずに、当事者双方による協議によって合意をし、問題を解決する手続を意味します。
問題が解決したことを当事者双方で確認して、書面に記したものが「示談書」です。
有効な示談書を作成する場合には、事実と和解内容を「当事者双方が」確認したうえで、「当事者双方が」署名・押印をする必要があります。
(2)合意書にサインするとどうなる?
不倫をした側が合意書にサインをして相手方に差し出すと、不倫をした側も不倫の事実を認め、合意書に記載した義務を相手方に対して負うと約束することになります。
その後、もし、合意書でしたはずの約束を義務者側が反故にした場合、権利者側は、合意書を証拠資料として、サインをした義務者側に合意書でした約束の履行を求めることができます。
合意書は、自由意思で、サインをして相手に差し出すことが原則です。
ですから、合意書の記載内容が事実と違ったり、実際には内心で納得していなかったりしたとしても、基本的には、サインをして相手側に一度提出してしまったら、自分の自由意思を公式に表明したことになりますので、合意書の内容をあとになって覆すことは難しいでしょう。
そこで以下では、合意書へのサインを求められた際の注意点について押さえていきましょう。
ポイント(1)帰りづらそうな場所に呼び出されたら、出向かない
合意書へのサインが求められる場面では、サインするまで帰りづらい雰囲気になったり、相手方が「サインするまで帰らせない」と感情をたかぶらせたりするケースがあります。
しかし、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害」することは、刑法上の強要罪(刑法第223条1項)にあたります。
強要罪にあたるような行為があれば、行為者は3年以下の懲役に処せられることになります。
つまり、「サインをしなければ害を加える」旨を告知して脅迫したり、暴行を用いたりして、合意書へのサインを強要した場合、サインを求められた側にサインをする義務がない以上、サインを強要した側は強要罪にあたることになります。
強要罪は未遂も罰せられる(同法第223条3項)ため、上記のような方法で脅迫や暴行などの行為を行えば、結果的に相手方が合意書にサインをしなくても、強要(未遂)罪が成立します。
さらに、場合によっては、暴行罪(同法第208条)や脅迫罪(同法第222条1項)も成立する余地があります。
(暴行罪)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:刑法第208条
(脅迫罪)
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
引用:刑法第222条1項
(強要罪)
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
引用:刑法第223条1項
民法第96条1項によれば、脅迫(条文上では「強迫」)による意思表示は、取り消すことができます。
しかし、もちろん可能な限りリスクを回避したほうがよいため、あとから取り消さなければならないような意思表示はすべきではないでしょう。
そこで、合意書を作成することになった場合には、いったん持ち帰って再検討することができるような状況で話合いに臨んだほうがよいでしょう。
たとえば、双方の自宅や会議室、お店の個室等、帰りづらそうな場所に呼び出されても、その指定には応じないほうが賢明です。
相手方からの呼び出しに応じるときには、ファミリーレストランや喫茶店など、不特定多数の人々が出入りしているオープンな場所を指定するようにしましょう。
ポイント(2)その場では合意書にサインをしない
相手方が合意書の文案を作成してきた場合は、その内容は相手に有利なものになっている可能性が高いため、その場で即座にサインするようなことは絶対にしないほうがよいでしょう。
不倫をした引け目があったとしても、相手方の言い分をすべて呑んでサインをする義務はありません。
合意書は、あくまで自由意思でサインをして差し出す書面だからです。
たとえば、「○日までに内容を確認してご回答します」と期日を伝えて話合いを打ち切り、冷静に誰かに相談したり、記載されている内容を入念に確認したりしましょう。
また、その場でサインをすると、合意書の写しをとるタイミングを失ってしまうことも多いです。
合意書の写しは、その後の交渉や何らかのトラブルが発生したときに、当時の状況や両者の関係性等を示す証拠として利用できることがあるため、忘れずにとっておきましょう。
ポイント(3)合意書の内容に納得できなければ、サインをしない
相手方から強要されて合意書にサインをしたような場合は、強迫(民法第96条1項)を理由として、念書にサインをしたという意思表示の取消しが認められる可能性があります。
また、合意書に記載されている内容が、法律や公序良俗に反している(民法第90条)ような場合には、合意書が無効となる可能性があります。
たとえば、「不倫をしたので会社を退職します」、「再び不倫をした際には慰謝料を1億円支払う」などと書くことを強要されるといったような、常識を大きく外れたケースです。
公の秩序又は全量の風俗に反する法律行為は、無効とする。
引用:民法第90条
サインをした合意書の内容を翻したいときや、合意書にサインをしたあとにトラブルがあった場合などは、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すると、賠償の内容(慰謝料の金額や支払方法など)についても、過去の判例や慰謝料の相場などを引用しながら、相手方と任意での交渉を行ったり、裁判で有利な交渉ができたりする可能性が高くなります。
【まとめ】合意書へサインするときは細心の注意を払うことが必要
有効な合意書があったとしても、それだけで不倫問題が解決するとは限りません。
しかし、示談や裁判の場面では、合意書が価値ある証拠資料として用いられる可能性があります。
このように、合意書は、重要な文書ですから、内容に納得できないまま差し出された合意書にサインをすることは絶対に避けるべきです。
合意書にサインする前に、今後の対応について弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
不倫の慰謝料請求をされてお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。